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我が家の冷蔵庫には、しかるべきクオリティのサン・ダニエレやパルマ産の生ハムが常備されている。実はこの間イタリアで直接仕入れてきたばかりで、その上イタリアから来る友人達がきっちりミッションを遂行してくれたおかげで、キロ単位のペッツォ(かたまり)が数個鎮座しているという在庫豊富な状態だ。先月、ウーディネの旧市街のエレガンテな食料品店で買ったプロシュットが近来のヒットだったので、仕事で東京に来ることになっているウディネーゼの友人に、同じ店で続き(?)のプロシュットを買ってきてくれるよう頼んでおいたのだ。同様にミラノから買ってきてもらうルートもコンスタントに確保している。こういうとなんだか簡単なようだけれど、もちろんプロシュットを買って持ち込むのは非合法なわけで、いささかスリルをともなう「運び屋」ミッションだ。プロシュット歴十数年、ここに至る道のりは長い。前にも書いたが、プロシュットをペッツォ買いするのはそれなりに熟練を要する。ヴェネツィアで買う御用達の店は決まっているが、サン・ダニエレの産地であるフリウリに足しげく行くようになってからは、未だ本場の店をあちこち試行錯誤中だ。ワインと一緒で、造り手や銘柄によって味が違うのはもちろんだし、店(プロシュットを扱うのはサルメリアや高級食材店など)によって目下切り出している部位が違っているので、その状況を見極めながら買うことになる。プロシュットは食べる分だけ注文して切って貰うのが普通だから、キロ単位のかたまりを買う客はあまりいないのだ。サン・ダニエレ村のほど近くに住む友人の家に滞在していた時、「サン・ダニエレのプロシュットのことなら俺に任しとけ」という屈強な地元男がやってきて、明日見たこともないような最高のプロシュットを教えてやるから驚くなよと、やたら威勢よく豪語していたのに、当のご本人がその晩ワインを飲み過ぎ、翌日にはそれどころではなくなってしまった。イタリア人でも、ちゃんと二日酔いするんだね。その夜は酒量もさることながら、大量の郷土料理が用意された総勢15人による大宴会だった。フリウリの山の地方の、しかも冬の料理といったら、やはり肉尽くしとなる。フリウリ地方独特の伝統的ストーヴで焼いた豪快な骨付き肉や、スパイシーなサルシッチャ(ソーセージ)やサラミだ。つけあわせはもちろん、これまた大量のポレンタ。それに直径40センチはあろうかというオレンジ色のカボチャをくりぬいてそのまま器にした、アトラクティブなカボチャのズッパが登場した。ズッパにはスモークしたリコッタチーズを削って入れる。デザートは山のように積み上げたプロフィッテールとアニス入りのカントゥッチ、庭先のリンゴで作った巨大なアップルシュトゥルーデル。食後には自家製のグラッパや果実酒が次々に出された。店で買ってきたような出来合いのものはなく、すべて手作りという見事に豊かな食卓だ。モダンなダイニングルームで繰り広げられてはいるものの、中世の祝宴はかくやと思わせるような野趣あふれる素晴らしい食卓風景だった。宴会は深夜過ぎてもいっこうに終わる気配がなく、ギターや太鼓を鳴らし、飲めや歌えのブリューゲル的様相となり、かくして前述のようなことにあいなった次第。このようながっしりした骨太の食卓に巡り合うと、レストランでの体験などどこかへ吹っ飛んでしまう感じがする。食べること、そして生きることの素朴な喜びが凝縮されているのだ。東京で暮らしていると、自分の食い意地がちょっと過剰に感じられることもあるけれど、ここにくると逆に皆のエネルギーに圧倒される。まだまだ修業の道は先が長いぞと思えるのだ。確実に太りそうだけどね。 プロシュットと並んで、現在のウチのお宝はウンブリア産の極上オリーブオイルだ。これも、先月バッサーノに住む友人のアレッサンドロから譲って貰ったものだ。菜食主義の彼の作る料理はシンプルながら、どれも材料が吟味されていて繊細なる美味。ことにオリーブオイルには並々ならぬこだわりを持っていて、厳選したオリーブオイルをひと抱えもある大きな瓶にストックしている。ジェノヴァ出身の面目を果たすべく、バジルペーストのリングイネ、ジェノヴェーゼを作ってくれたが、これもオリーブオイルの質が決め手となる一皿だ。一番搾りのオリーブオイルは、その色通りの緑の香り、かすかにぴりっと目の覚めるような爽やかな味わい。かりっと焼いたパンのひとかけにこのオイルをたらりとかけるだけで、他にはなにもいらないくらい。パスタやズッパにも仕上げのひとたらしで、魔法のように素晴らしい香りをまとう。旨い旨いと絶賛したら、気前よく空き瓶に詰めて持たせてくれたのだった。さて、このブオニッシモなオイルを手に入れて喜びはしたものの、その後がちょっと悩ましい。これを日本までどうやって運ぼうかという算段である。つまり、一昨年夏のロンドンでのテロ未遂事件以来、100ミリリットルを超える液体の機内持ち込みが規制されているからだ。チェックインで預けるバゲイジの方に入れるのはオッケーだが、オリーブオイルの瓶が荷物の中で割れたりしたら(荷物係のバゲイジの扱いはそりゃあ乱暴だから)衣類がすべてオイル漬けになるのは必至だ。とんでもないディザストロである。ギフト用のスコッチかなんかを買い、外の円筒の化粧缶だけを使ってガードしようかとかあれこれ考えたが、果たしてドンピシャな解決策を得て、無事に持ち帰ることができた。数日後立ち寄った田舎町のガラクタ市で、イサオ君がオイルの瓶ごとちょうどすっぽり入るサイズの古いステンレス製のポット(5エウロ)を見つけたのである。念ずれば通ず、というのだろうか「なんとしてでも持って帰りたい!」という情熱が天に届いたかのようだ。ヴェネツィアを発つ前日の夕方、うっかりいつもの店(市場近くなので店仕舞いが早い)でサラミを買うのを忘れ、ダメモトで駆けつけたら、まさに店の主人がウィンドーの明りを消し、テントをたたもうというところだった。ショーケースはすべてきれいに片づけられていたが、親切にも奥の貯蔵庫からサラミを出してきてくれた。間一髪のところで間に合って胸をなでおろした。売ってくれた店主も一緒になってほっとしてくれたようだった。そのにんにく入りの自家製サラミや上等のパルミジャーノのかけらがどれだけ人を幸せにするか、きっと彼は知っているのだ。そしてその通り、プロシュットもサラミもパルミジャーノもペコリーノもオリーブオイルも、めでたく我が家にやって来て、たくさんの人を幸せにしている。もちろん一番幸せなのは、そのすべての時間を共有している私たちなのだけど。 |
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