DIARIO MENU3/00 初出版4/00 飛ぶのが怖い6/00 趣味のスズメ7/00 インターネット8/00 ドルチェ・ヴィータ9/00 アルデンテ伝説10/00 ケータイ不ケータイ11/00 江戸への逃避12/00 はんなりまったり・いん・きょうと

5/00
ヴェネツィア
ここ数年、年に1回か2回ヴェネツィアに通っている。縁あって、ヴェネツィアの友人の実家に滞在することにしているのだ。勝手に第二の故郷などと思っている。今回はそのヴェネツィアについて本を書いたりしたので、出来上がった本をヴェネツィアのパパとマンマに見せるべく訪ねる計画だ。

そもそもヴェネツィアについて本を書こうと思い立ったのは、ひとつには私が出会った昔ながらのヴェネツィアの暮らしを、多くのひとに伝えたいと思ったからだけれど、もうひとつにはヴェネツィアがここ数年で急速に変化していると感じたからだ。もちろんパパやマンマ、そしてヴェネツィアに対する自分の気持ちをなにかのかたちで表現したかったこともある。ヴェネツィアのような歴史的な町がその文化ごと持ちこたえられなくなって変貌の一途をたどるというのは、世界中のあちこちで起こっている現象であって、しかたないというかとくにいまさら驚くべきことではないかもしれない。ただ、その一方で「ヴェネツィアよ、お前もか」という気になるのも事実。

今年もゴールデンウィークに例年のごとく顰蹙をかいながら3週間の休暇をとってヴェネツィア暮らし。果たして1年ぶりのヴェネツィアは、思っていた以上の変化をしていた。まず、パパもマンマも70代の後半で当然ながら、だんだんと年をとる。ヴェネツィア全体も住人の老齢化が進んでいるのだ。親戚のやたら威勢のよかったおばさんもめっきり元気がなく、ぐちっぽくなっていた。ミオ・バールのカルロも、今は回復したものの最近まで入院していたとかで、だいぶ痩せたようだ。

いつもの駅の観光案内所で貰える地図が小さい省略タイプになっている。催事のパンフレットもミレニアム版ということで、年間スケジュール表になっていた。(前は週がわり)立派なんだけど、広告ばかりで情報は判りにくい。なんかせちがらい感じ。町の中心にある市場、メルカート。魚市場はあいかわらずだったけど、青果市場は屋根つきになるらしく改築工事中。テントを広げた露店の風情は失われてしまうだろうな。場所を移して仮営業している市場には、野菜売りの名物おばさんの姿はなかった。夢のようにうまいマロングラッセが気に入っていた老舗の菓子屋が、そっくりそのまま居抜き状態で別の店になっていたのにも驚いた。思わず目を疑って看板を見上げたら、無惨に名前のプレートが剥がされていた。もちろんマロンラッセはない。おまけに路地奥の本屋の隣には「東京」という名の怪しげな店ができるという噂。やれやれ。

ひとつひとつはちいさな出来事のようだけれど、行く先々でぶつかると、なんだか人生はうつりゆくもの---などと必要以上の感慨にふけってしまう。わかってはいても、ヴェネツィアがすこしずつキラメキを失っていくようでさみしい。まあヴェネツィアは筋金入りの観光地なのだ。沈みながらも、夢と幻想を与えてくれることにはちがいないのだけれど。