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12/10
旅する日々
イタリアから戻り、例によって1週間ほどの時差ぼけから脱出して気づけば世の中は年末の真只中。肉体的な時差ぼけのほうは年を重ねるにつれてひどくなっているような気がするものの、昔のように旅の余韻というか思い出にいつまでもふけり、なかなかふだんの日常に戻れない、なんていうセンチメンタルなことはなくなりましたね。先月ヴェネツィアに行く前に感じていた予感のようなものは的中し、ヴェネツィアと東京の生活の間には、いくつかの空港で過ごす宙ぶらりんでまったりした時間と十数時間の飛行機移動がはさまっているというだけで、私の中では完全にひと続きに感じるようになっているみたい。つまりヴェネツィアにいる時間も東京時間も日常生活のひとつであることに変わりがないという、いわばあたりまえの実感。特に今回は旅行中もブログを更新したために、いつもとは違う興味深い感覚を味わうことになりました。今までも旅行中は、かなりこまめに日記風のメモをつけていたのだけど、それとはまったく異なる体験だった。自分のためだけのメモでなく、誰かが読むことを想定したレポートを毎日アップしていると、その日に起こったことが自分の中できっちり客観的に整理されて終わっていくのが分かる。まるで1日ごとにタイトルをつけたファイルを書類棚に一冊ずつ収めているような感覚。ヴェネツィア到着後も時差ぼけのため、どうしても朝早くに目が覚めてしまう。どうせ眠れないのだからベッドから起きだして、パソコンに向かって写真をチェックしたりブログのテキストを書いていたら、それが旅行中の習慣になってしまった。まだ誰も起きていない静かな家の中で、毎朝自分とじっくり向き合って過ごすこと自体がいつになく内省的で貴重な時間でした。そうやって旅の日々をきちっと1日ずつ決着させていたので、ヴェネツィアを離れる日には飛行機に乗った時点ですでにファイルの最終ページを閉じてしまった感があり、帰国してから東京の自宅でたった半日あまり前のことを書き起こすのはやけに困難な作業になった。それまでリアルタイムでさくさく書けていたのに、旅の最後のブログを仕上げるのには随分苦労する羽目に。

ヴェネツィアのインターネット事情がどうなっているのか、最初はさっぱり掴めなくて、到着後数日はブログをアップできないストレスを感じて(貧乏性の私は)いらいら。友人のサンドラの家は、Wifiのアンテナが目の前にたっているという一見最高の立地なのだけど、彼女自身も繋がりやすいポイントを求めノートパソコンを持って家の中をうろうろするという有様。ためしにヴェネツィアのフリーネットワークに繋いでみたら、これが遅い遅い。メールはなんとかできるものの、添付写真やネットのブラウズなんて遅すぎて無理なので、あきらめることに。それから2日ほど、インターネットポイント(自分のパソコンを接続するのではなく、設置してあるパソコンを使うだけのところが多い)を覗いてみたり、美術館で見かけたネットをやってそうな若い地元の子に質問したり、ヴェネツィア在住の日本の方に訊いてみたりと調査してみた。するとフリーネットワークは繋がるポイントを見つけるのがけっこう難しいらしく、皆パソコンを持って(アンテナが集中している大運河沿いや駅周辺の)路上をうろうろしているとか、どこそこの教会脇の階段が何故か繋がるベストポイントなので時々順番待ちの行列ができているとか、数十メートルの超ロングLANケーブルを使って公共施設やホテルのモデムからこっそり(できるのか?)繋ぐとかの、嘘のような話をいろいろと聴取できたけど、ようするにヴェネツィアのネット事情はかなりへなちょこなんではないかという結論に達しただけ。めんどくさいし、お金もかかる(1時間6〜7エウロ)けど、結局怪しげなインターネットポイントに挑戦するしかないのか、と思い始めた頃、同じ建物の階上の住人から朗報が。息子たちが使っているネットワークに入れば繋がるのではないかというのだ。さっそく最上階の家にお邪魔して、教えてもらったパスワードで設定してみたら、速度も問題なくなんとあっさり繋がり一件落着。ただし、その家の住人が留守の時は玄関ドアの外の階段でパソコンを開く(おまけに外光がある日中しかできない)という妙なことになるのだけど、いつでも繋がるのだから贅沢はいえない。これでめでたくネット問題は解決し、パソコンと冷たい石の階段に腰掛けるためのマットを抱え、しっかりダウンコートを着込んでたびたび最上階に上っていくことになるのでした。そんなこんなで、いろいろ紆余曲折もあったモバイルブログ体験でしたが、読者の方々から「一緒に旅行しているようだった」というコメント、感想をいただいたりすると、よりいっそう共有感があってうれしく励みになるものです。人生という日常もまた旅と思えば、そこにはいろいろな発見があり、日々新鮮な気持ちで過ごせると思う。今年も押し迫りました。皆様来年もよい旅を。
トーキョー×ヴェネツィア