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01/10
BUONA SPESA
ぼやぼやしていたら今年も12分の1が過ぎようとしている。1年の計は元旦にあり、とか。今年こそはさくさく時間を有効に使おうと念じたものの、早くも諸々押し気味ペースで滞っている。毎度のことながら年明けは健康診断や税金の申告の準備が常であり、それに今年は運転免許の更新などもあって雑用でばたばたと過ぎていき、HPの更新すら青息吐息の状態。やれやれ。そんな中、イタリアからアントネッラがいつものように出張でやって来た。半年前に来た時、いずこも同じ不況による経費節減のため、もう(年2回の展示会のディレクターとしての)日本出張はないかもしれないといっていたけれど、結局例年通り来ることになったらしい。あいかわらずきっちり1週間のタイトなスケジュールであることに変わりないが、何とか打ち切りにならずに済んだのだからまずはめでたい。もちろん私としてはアントネッラに会えるのが一番の楽しみなんだけど、滞在中は確実にイタリア語漬けになるわけで、貴重な(しかも定期的な)語学トレーニング週間ともいえるのだ。よく語学上達の手段として、その国の恋人をつくればいいというけれど、好奇心が強く、買い物好きの、ディテールにやたらと注文の多い、そして精力的な女友達というのも、かなり強力なリーサルウェポンといえる。その上我がアントネッラは典型的なフリウラーナ、つまりとびぬけておしゃべり&早口ときている。アントの出張時のスケジュールは毎回判で押したように一緒、宿泊するホテルの階数(禁煙フロアを選ぶから)まで決まっている。買い物のコースとしてヨドバシカメラとMUJIは必須で、ファッションディレクターという仕事柄、原宿や青山、渋谷などのトレンドスポットも視察しなければならない。案内するこちらとしても、日頃から下調べというか研究しておかねばならないのだが、これがなかなか難しい。なにせ相手は半年に1度やって来るのだ。店舗の入れ替わりがいくら頻繁といっても、そうそう目新しくなるわけでもない。おまけにこの頃は不況のあおりで、新店舗どころか撤退してしまう店すらあるご時世。鳴り物入りでオープンした新開発ビルや新装デパートも、人気が少なくうすら寒い状況だ。ともあれ1月の終わりといえば冬物セールも最終とあって、プライスカードも軒並み表示の半額になったりする。アントのお供でもなければ、セール(SALDE)巡りをすることもないので、普段は素通りしてしまうようなブティックに入る数少ないチャンスである。もちろん彼女が行きたがるのは、コムデギャルソンやヨウジ・ヤマモトなどすべて日本のデザイナーもの。しかも今回の狙い目は、冬物の羽毛コート。私にいわせれば、羽毛のコートなんか絶対にイタリアで買ったほうが安いし、クオリティもよさそうなのに、やはりないものねだりなのか、アントには日本のブランドが魅力的らしい。実際私が着ていた羽毛コートのタグを見て「イタリアで買ったの?」と驚いていた。(そうだよ、あたりまえじゃん!と答える私)当然ながらイタリアでは、この立場が逆転するのだからおもしろいものだ。アントはヨウジのコートを前に悩み抜いたが、結局は欲しかったのと色が違うので買うのをあきらめた。ちょっと意外な感じがするけれど、彼女に限らずイタリア人はおしなべて買い物にはとても慎重である。特に値の張るものはさんざウィンドーショッピングをしたあげくに決定するのがふつうだ。いい品物を適性値段で賢く買うと、「BUONA SPESA」よい買い物をしたねと誉められる。逆に見栄をはってつい要らないものまで買ったり、衝動買いしたりすると浪費家と見なされて見識を疑われかねない。

滞在最終日は朝早くから買い物三昧、まずは定番の日本食材をホテル近くのスーパーで手早くゲットする。例によってほうじ茶、海藻サラダ、インスタントみそ汁、だしの素、チューブ入りワサビ等々。お次は合羽橋にて包丁を買う。前回初めて買った和包丁がいたく気に入ったらしく(さぞやイタリアでその切れ味を自慢してるんだろうなと想像される)もう1本今度はやや小ぶりのをご購入。その後は新宿ヨドバシカメラへ移動する。今回のアントのもうひとつの大きな目的はデジタル一眼レフカメラなのだ。これこそはやはり日本のカメラ専門店で買うべきものである。日本の店舗の凄いところは、何にせよカテゴリーごとに編集、構成された商品を一覧できること。年がら年中見本市をやっているようなものだ。イタリアではこうはいかない。1週間連日周辺のカメラ店をしらみつぶしに回ったとしてもこれだけの機種を見るのは無理だ。昔、初めてヨドバシカメラに行ったアントは、壁一面がマウスだったり、ワンフロア全部がテレビ、全館すべてがカメラで埋め尽くされているのを見て唖然としたものだ。今でも見渡すかぎり全部i-POD関連なのを見て(私も一緒になって)驚愕しているけど。実はアントには予め目星をつけた機種があった。友達が持っていて、自分でも何度かいじったことのあるキャノンのEOSシリーズだ。が、目指す機種は例によってとっくにモデルチェンジしており、店頭にあるのは最新モデルばかり。それでも同シリーズならほぼ使い勝手も変わらないし、より軽量化されるなど改良されているわけだから、あっさり決断すると思いきや、さあここから迷うこと粘ること1時間あまり。あまりの選択肢の多さに目移りし始めるときりがなくなり、ぐるぐると思考は空回りするばかり。店員の説明をいちいち通訳するこっちも相当疲れたね!アントの質問に必死で応酬してたら、思わず間違えて店員の方にイタリア語で話しちゃったり、もうぐちゃぐちゃ。最終的な対抗馬としてコンパクトで女性ウケするデザインのパナソニックLUMIXが残った。LUMIXにはイタリア語の言語フォローも取説もないので、どう考えてもありえないのだが、そこはデザイナーの性というか見た目優先ということらしい。そこでイサオ君とふたりで奮起、ほとんどキャノンの営業か回し者みたいなことをいって、なんとか初心貫徹でEOSを買わせることに成功した。本人は買った後も、LUMIXはライカのレンズなんだとか、イタリアじゃ有名カメラマンは皆持ってるのに、と未練たらたら。そんなのただのみかけ倒しの一時的なMODAにすぎないよ、使わないスペックだらけなんて意味がない、やっぱりカメラは専門メーカーじゃないと、とかあれこれいってみるものの、今ひとつ納得しきれてない感じ。まったく往生際が悪いんだからと呆れていたら、救世主が現れた。半ば恒例化したスキヤキディナーにやって来た画家の友人Nが(自分も持っている)EOSをベストチョイスと絶賛、LUMIXを「所詮は家電メーカーのカメラ」と一蹴してくれたのだ。つまりセカンドオピニオンていうやつね。アントはこれに気を良くし、無事安らかに帰国したのである。今ごろウーディネで「やっぱりカメラは画質と操作性よね。専門メーカーのものでなくちゃ。LUMIXなんか所詮は家電メーカーのカメラ、見かけだけで判断しちゃ駄目なのよ」とちゃっかり吹聴しているに違いない。今回のイタリア語強化週間、締めの盛り上がりもあったことだし、まずまずの実績をあげたかもしれないね。
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