 |
 |
 |
カンノーロにボンベッタ、ビーニェ、フィアンマ---なんのこと?でも、このあとトルタ・ディ・リコッタ、ティラミスと続けばもうわかる。そう、これはみんなお菓子の名前。パスティッチェリア(お菓子屋)の店先に並ぶ甘い甘いドルチェたちだ。マルコ・ポーロの時代からヨーロッパの交易の玄関だったヴェネツィアには、砂糖も新奇な嗜好品としていち早く入ってきたという。チョコレートやジェラートの発祥もヴェネツィアだという説もあり、たしかに創業年数を誇る老舗のパスティッチェリアが少なくない。そんな歴史的背景を知ってか知らずか、ヴェネツィア人は甘いものに目がない。朝食にはクリームの詰まったブリオシュが定番だし、カフェにお砂糖たっぷりはあたりまえ。タッツァといういわゆるデミタスカップのカフェにスプーン2杯程度はごくふつうだが、とあるバールで山盛り5杯もの砂糖を投入している強者を目撃したこともある。しかも、お菓子が女の子や子供のものという考えはここではまったく通用しない。さんざんヴィーノを飲んだあとでも、食事をしめくくるのはやっぱり甘〜いお菓子。うやうやしくお菓子が運ばれてくると、日ごろ酒飲みで名を馳せる男たちも嬉しそうに目尻を下げる。その様子からすると、お菓子に積極的なのはむしろ男性のようなのである。 |
 |
おなじみのティラミスもヴェネト生まれのお菓子。「TIRAMI-SU」とは、私を引っぱり上げて、すなわち「元気づけてよ」というくらいの意味。卵とマスカルポーネチーズのお菓子は甘くて栄養もたっぷり、食べたら元気になるよねということだとか。イタリア料理のネーミングはかなり文学的、比喩的なものが多く名前から内容を類推するのが難しいけれど、なかでもお菓子の名前は傑作ぞろい。キアッケレ(お喋り)、ソスピリ(ため息)、ブジエ(嘘)、バッチ(キス)。さすがアモーレの国のイタリア男が命名しただけあって、一体どんなお菓子なのだと思わせぶりなものばかり。どうやらドルチェとアモーレはただならぬ深い関係、両者のとろけるような甘さは男たちの幻想の中で渾然一体となっているらしい。女性に捧げる最上級の賛辞は、お菓子と同じドルチェ、愛する女性はドルチェッツァ。チョコレートみたい「コメ・チョコラータ」ときたら、いい女だねえと言われたことなる。「フリトレ(カルネヴァレの揚げ菓子)は女のようなもの。甘くてふっくら丸くなけりゃうまくない」なんていうヴェネツィアの諺もなにやら含蓄があるではないか。 |
 |
さて、甘党の男たちにとってジェラートも忘れてはならない愛すべきドルチェ。おまけにこれは別
腹らしく、お腹がいっぱいで苦しいと言っておきながらすぐそのあとで、3段重ねのジェラートをぺろりと平らげたりするから要注意。調子にのって同じペースで食べていると、こちらは確実にお腹をこわしてしまう。これはもう体質の違いとしかいいようがない。もちろん我がパパ・ヴィットリオも例外ではない。夕方のパッサジャータのときに買っておいたジェラートが食後に登場すると、「男はみんなチョコラータが好きなのさ!」とまっさきにチョコレートのジェラートに手をのばす。と、マンマがすかさず、ティピコ(典型的)なヴェネツィア男だねと片目をつぶってみせる。いくつになってもドルチェは心をとろかすもの。人生になくてはならない愛の妙薬なのかもしれない。 |
 |
 |
 |