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週末が近づくとマンマはそわそわしはじめ、まずはあちこちに電話連絡。休日(フェスタ)といえば、家族や友達が集まって一緒に食事をしたり、ちょっと遠出するのがおきまりの楽しみなのだ。遠出といってもヴェネトの田園地帯(カンパーニャ)やリド島へ日光浴など、電車や船でせいぜい1時間くらいの小旅行。例によって大きな声の電話の話はまる聞こえだ。「それじゃあ、あの子たちにどっちに行きたいか訊いておくからね。」どうやら行き先の最終決定は私たちにゆだねられるらしい。マンマのプランのひとつは「プンタ・サビオーニ(ラグーナ対岸の砂地海岸)に、とびきり新鮮で旨い魚料理を食べに行く」、もうひとつは「パドヴァの競馬に行く」というもの。パドヴァはヴェネツィアから電車で30分ほどのヴェネトの町。どちらも魅力的だけれど、ベン・ハーのような二輪車立てというのが面白そうなので、競馬のほうに行くことにした。そうと決まればマンマは昼食のしたくもそこそこに出かけていき、しばらくして髪型を気にしながら戻ってきた。パルッキエーレ、美容院に行っていたのだ。「フェスタには、どこも閉まってしまうからね」といいながら、湯気をたてているパスタの鍋に近づこうとしない。せっかくふんわり仕上げた髪が、湯気にあたって台なしになっては大変。ちょっとばかりおめかしするのもフェスタならではの楽しみなのだ。
さて翌日、パパとマンマそれにお友達のおばさん連3人に私たちという一行7人でパドヴァへ。電車に乗り込み、道中喋りっぱなしの賑やかさ。駅から競馬場までは、のどかな野原をのんびり歩いていく。お天気も最高、殆ど遠足気分だ。誰もが口々に「ああ、カンパーニャは緑もいっぱい、空気もいいし、なんて広くて気持ちがいいんだろうね」と言いあっている。ヴェネツィアは海に囲まれた人工島。世にも美しい町ではあるけれど、その住人たちにとっては私たちには思い及ばない閉塞感もあるのだろう。だからこうしてカンパーニャに出かけては、のびのびとした気分を満喫するのだ。どこまでも続く本物の地面を踏みしめる幸せ。花が咲き、小鳥の鳴く春はまた格別だ。ヴェネツィアの家のほかに、カンパーニャに一軒、そしてリドに夏用の家をもう一軒というのが永遠の夢なのだ。 |
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競馬場につくやいなや、なにはともあれ腹ごしらえと食堂へ直行。場内にあるオステリアは意外なほどちゃんとした山小屋風のつくりで、それぞれ注文した子牛レバーや兎の煮込み、骨つき鶏のグリルなど素朴な地元料理もなかなかの味でわるくない。とくにつけあわせのほかほかのポレンタ(とうもろこし粉で作るヴェネトの代表的な一品)は本場だけあって、さすがに旨い。もちろんここでも皆のお喋りは絶好調で、当然ヴィーノもすすむ。ところがお代のほうは全員がフルコースを食べ、ヴィーノも飲んでしめて130000リラという想像を絶する安さ。こういう場合、自分の分だけ払うローマ式割勘、アラ・ロマーナなので1人あたり約1000円ほどだ。これでゆったり満足できるのだから嬉しくなってしまう。この後の競馬観戦での馬券の買い方も、それはつつましい。それでもご贔屓の騎手には声をかぎりに応援、勝った負けたと熱狂し、思う存分楽しむ。帰り道も興奮さめやらぬ調子で競馬の話でもちきりだ。皆で過ごすフェスタの一日はやっぱり特別に楽しいもの。そわそわと次の週末が待ち遠しくなってしまうのはマンマだけではない。 |
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